特選 立川流落語会 |
| 9月28日 | 有楽町マリオン | 立川談志、左談次、藤志楼、志らく、談春 |
「特選立川流落語会はいい落語会だね」と馬生師匠が呟いた。
「僕も出演(で)たいんすから」三平師匠がはしゃいでいる。
「落語会はこうでなくちゃいけません!」舞台袖で文楽師匠が勝ち誇った顔で笑っているのが見える。
前座が真っ青になって飛んで来た。
「円生師匠、けしくりからんと言って怒って帰っちゃいました!」
「柏木の師匠宅に謝りに行かなきゃ、あははは」
私は欣しくて笑いが止らなかった。
「私の落語のせいかな?それとも先生の落語かなあ?」
「円生は円楽さんにまかせときゃいいよ。それより今度志ん生師匠に出演(で)てもらおうよ。落語なんてやんなくていいよ。高座に座ってもらうだけでかまわない。ちょっと寝てもらえれば大爆笑!」、高田先生が熱く語る。
「ひざはアダチ龍光だぞ」
「勿論です、師匠!」
私は横にいた談春兄さんに「龍光先生が来たら師匠泣いちゃうよ」と耳元でささやいた。
「じゃあ俺、小半治連れてこよっと」
談春兄さんの眼がいたずらに輝く。
自分の主任(とり)の時は二葉あき子と薬師丸ひろ子、それにフランキー堺をゲストに呼ぼう、そう思いついたが誰にも言えなかった。
「志ん生は出演(で)ないってさ」、山藤章二先生がそう言いながら楽屋に入って来た。
「現在の出演者で充分だろって志ん生が言ってたよ。」
皆、決まりの悪い顔をして微笑んだ。
すると突然"現在を生きていない噺家の語る落語の悲しさよ"という声が楽屋にこだました。楽屋が一瞬、静まり返った。
"お前達にまかせたよ"
落語の神様が衰退しきった現状の落語界に業を煮やして我々の前に現れた。
「安楽庵策伝(あんらくあんさくでん)?」私が声をあげた。
「ミッキー・カーチスかと思った」と高田先生。
「でてくるなんざぁ野暮だね」左談次師匠が煙草をふかしてそう呟いた。
師匠は気にも止めずにカツサンドを頬張っていた。
----目が覚めた時、私は泣いていた。この涙は、落語を愛した名人達の流した涙と、自分には明日がある欣し涙の両方であった。
立川志らく

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